グローバルビジネスの“HUB”シンガポールから東南アジアを俯瞰する。 Series 02:シンガポール編 東野 義男 Taisuke Inui TAIKO ASIA PACIFIC PTE. LTD.  C.E.O.

 流体移送機器の総合メーカーとして「未来創造型企業」を志向し、グローバルな事業展開を推し進める大晃グループ。2017年、シンガポールに駐在所を開き、2018年にはオランダのポンプメーカーMarFlex社をM&A。さらに同年、シンガポールの駐在所を現地法人へとアップグレードさせた。地球規模で広がる仕事は、人の成長も加速する。ただし、戦略なき拡大は膨張でしかない。自らの力で市場を拓くグローバルエクセレントへ。大晃グループのグローバル戦略を実践するキーパソン達のリアルを追う。オランダ編に続く、第二弾。

 2017年2月、大晃機械工業はアジアにおけるグローバルビジネスの“HUB”・シンガポールに駐在所を設立。2018年7月には法人化を果たした。これで足場は固まった。いよいよこれから本格的なマーケット深耕が始まる。先頭に立つのは、現TAIKO ASIA PACIFIC PTE. LTD. CEOの東野義男。2年前、単身でシンガポールに赴任し、駐在所の設立から法人化まで、その一切を仕切ってきた。「東南アジアにおける大晃のビジネス基盤を確立することが自分の使命」と語る東野。彼は今、広大な未開の市場にどんな策をもって切り込もうとしているのか?その胸の内を聞いた。

ー まず、大晃アジアパシフィックの概要を教えてください。

 正式名称はTAIKO ASIA PACIFIC PTE. LTD.といいます。大晃機械の100%出資でシンガポールに設立した現地法人で、その名のとおり、大晃機械の東南アジアや環太平洋エリアを管轄する支社のようなポジショニングですね。ミッションとしては、まず東南アジアでのビジネス基盤を確立すること。体制の強化と業務プロセスの構築が目下のテーマです。もともと舶用事業部の出先として駐在所を開設したのが始まりなので、今は舶用製品のビジネスが中心。ターゲットが明確な船舶関連からはじめて、本社の指示に沿って、徐々にプラントやインフラ系といった領域に広げ、さらに新たな市場開拓にも取り組んでいく…。一歩一歩着実に、東南アジアに根ざした会社をつくっていきたいと思っています。

TAIKO ASIA PACIFIC PTE.LTDがオフィスを置くシンガポールランドタワー。エリアは世界中の名だたる企業が拠点進出するビジネスの一等地。もちろん舶用関連業界の企業も多い。ビジネスチャンスにあふれる街といえよう。


ー そもそもシンガポールに進出したのはなぜですか?

 シンガポールはアジアにおける、“HUB”といえると思います。物流や商流の利便性が高い。これは東南アジアでビジネスする上ですごく大きな意味があります。さらに税制上のメリットも大きい。具体的に言えば、国際的なお金の出し入れとか、通貨のエクスチェンジとか、そういうところの規制が寛容で、ビジネスが非常にやりやすい。法律や制度も非常に柔軟ですしね。物流に関しても、空路ではチャンギエアポートがあって、海路についても立派な港がある。世界中の企業が拠点進出しやすい制度や施設が整っているんです。だから、グローバルに展開する船会社は、ほぼシンガポールに拠点を持っています。シンガポール自体も船舶関連の産業が盛んですから、むしろ今の時代においては、シンガポールに出ないとビジネスの拡大もむずかしいのではないでしょうか。

ー 法人化までの道のりは?

 シンガポールは他国と比べると、法整備もなされていて負担は少ないと言われています。それでもゼロからすべてでしたからね。どんな書類が必要なのか?どこの役所で、どんな手続をすればいいのか?など、すべて調べて、一つずつ潰していかなくてはなりませんでした。ひとつの会社を立ち上げるというのは、やはりそれなりに大変で…。まあ、税制や保険、会計処理のことなど、壁にぶつかった分だけ勉強させてもらい感謝しています。

オフィス風景。現在CEOの東野とアシスタントの西の2名体制。西は中国語を母国語に、英語、日本語が堪能なトリリンガル。東野からの信頼も厚い。

大晃グループのグローバル展開

世界の海を行き交う船を相手とする舶用事業。それが、グローバルビジネスの起点。

 大晃グループでは、従来からある大晃機械の製造子会社(中国に6社、台湾・韓国に各1社)に加えて、2018年、オランダのポンプメーカーMarFlex社を傘下に収め、さらにシンガポールにTAIKO ASIA PACIFIC PTE. LTD.を設立したことで、アジアからヨーロッパへと広がる営業ネットワークが一気に強化されました。
 グループの中核企業である大晃機械の事業部門は、製品用途別に「舶用事業部」「陸上事業部」「EM事業部」の3つ。そのうちもっとも大きな売上シェアをもつ「舶用事業部」は、世界の海を行き交う船舶用のポンプを取り扱っているわけですから、そもそもグローバルビジネスが事業の前提です。3事業で唯一、海外営業の専門組織(海外舶用営業部)を置き、TAIKO ASIA PACIFIC PTE. LTD.の前進となったシンガポール駐在所もその出先拠点から始まったものでした。

ー 現在、シンガポールで展開している営業活動とは?

 まず取り組んでいるのは、舶用を中心にもともとやっていた事業領域。すぐに売上、利益が見込めるビジネスを優先しています。しっかりとした収益基盤をつくって、それから新市場の開拓、新規ビジネスへと拡大していくという流れを思い描いています。
既存事業の深耕を図りながら、リサーチを進め、十分に吟味した上で新たな投資先を探る。そういう作業をルーチンとして確立することが重要だと思いますね。
 エリアはシンガポール近隣の東南アジア諸国、ASEAN諸国。南西アジアを含むインドやスリランカ、バングラディシュ、あるいは中東のドバイ、サウジアラビア、トルコといったところ。メインはやはり東南アジアですが、それくらいの範囲での商談はあります。だから出張は多いですね。特に、新規開拓となると、お客様の顔を見ずに立ち上げるわけにはいきませんから。さまざまな地域を回って、その土地の文化や慣習を学びながら新たな顧客の獲得を進めています。

シンガポールでの活動は比較的狭いエリアに客先が集中していることもあり基本的に地下鉄かバス、またはタクシーを利用。東京都内の感覚に近いかもしれない。
気候は年間を通じて約30度で普段はシャツのみで活動する。


ー 具体的な営業先は?

 ざっくり分けると2段階に分かれます。まず船の建造段階は造船所が営業先になるケースが多いですね。その後、船が完成して海に出ると、船のオーナーさんだったり、オペレーターさんだったり…。そういうところがお客様になります。
 ただ、東南アジアでは建造量は日本や韓国・中国などと比べると少ないので、どちらかと言えば、船のオーナーさんやオペレーターさんに対する営業が多い。

ー そこではどんな話を?

 当然、当社の製品についての話になりますが、その前に、まずはお客様の状況をしっかり聞くことです。トラブル情報とか、あるいは新しい船の建造計画とか。そういうことが聞き出せたら、「こんな技術を採用したら?」とか「こういうポンプのプランを置いてみたら?」とか、提案ができる。また、直接商売つながることではないですが、船舶業界の話やマーケット動向についての会話も多いですね。
 だから知識はとても重要です。営業上の決定力になるわけではないけれど、攻撃力にはすごくなっていて。いろんな知識を持って、「お客様が何を知りたいか」「どんな話をしたいか」を想像しながら喋るのと、何も考えずに喋るのとでは、天と地ほどの差ができる。話が盛り上がれば、お客様もポロっと新しい情報を出してくれたりしますしね。

ー 海外営業における大晃製品の強みとは?

 実は、東南アジアでは「大晃」の名前はけっこう知られていて。特に品質的な部分で「大晃のポンプはいい」というイメージがあるように思います。船というのは転売されていろんなオーナーの元をめぐるのがふつうですが、メイドインジャパンの船は評価が高い。それで、メイドインジャパンの「いい船」に載っている「いいポンプ」。それが大晃のポンプだ、と。それがこちらではある程度浸透していますね。
 また船には一種類のポンプではなく、いろんな用途のために多様なポンプが付けられるのですが、数あるメーカーの中でも環境機器も含めた船内のほとんどのポンプを売ることができるところとなると、世界でも数社しかありません。日本では恐らく大晃だけ。パッケージサプライなどと言ったりするのですけれど、お客様からすればウチにオーダーすればワンストップで全部揃う。それは大晃の大きな強みだと思います。

TAIKO製品の代理店を訪問。ビジネスパートナーとして二人三脚で歩んできた関係の企業だ。しかし、MTGの現場ではシビアな交渉が続けられる。最終的には笑顔で妥結。両者の信頼は厚い。

大晃の舶用製品の強み

他社にないラインナップの豊富さと高い品質。
さらに、環境課題への対応力でも業界をリードしています。

 船舶にはポンプが必ず搭載されています。大型のコンテナ船になるとその数は約40機にも及び、エンジンに潤滑油を供給したり、熱をもった機関の冷却用に使われたり、荷役にも多様なポンプが使われ、それぞれが重要な役割を果たしています。つまりひと口に“舶用ポンプ”と言っても、多種多様。船舶一隻に必要なポンプを一社でカバーできるメーカーは、実は稀なのです。その稀な一社が大晃機械。豊富なラインナップで他社を圧倒しています。また品質の高さも衆目の一致するところ。さらに、近年高まる環境課題に対する要望にもいち早く対応し、最先端の環境対応型製品を独自開発、世に送り出しています。

ー グローバル志向の学生に求めたいものは?

 ズバリ、“情熱”と“忍耐力”ですね。情熱というのは、自分を突き動かしていくための前向きな気持ち。そして忍耐力とは、一方で何かを受け入れていく我慢強さだったり、寛容性だったり…そういうものだと思います。
 情熱を持っていろんなことに挑戦したり、高い志を持って前進することは、海外だけでなくビジネスにおいて不可欠なことだと思います。その一方で、どんな事態が起きても、まず受け入れて、乗り越えていく力もいる。多様な文化を背景に、いろんな考え方を持った人がいますからね。自分とは異なるさまざまな価値観を許容しながら、仲良く平和に仕事をしていかなければならない。そういう意味で、情熱と忍耐力、あるいは粘り強さといったようなものがとても大事になると思います。

東野の日常は忙しい。スマホでメールをチェックしながら早足に移動する。駐在所時代を経て、現地法人化を苦労しながら実現させたが、その経験は現在の東野の大きな自信となっている。「でも、本番はこれから」と東野。ビジネスは今スタートを切ったばかりなのだ。

ー “情熱”と“忍耐力”を東野さんの経験を通して解説いただくと?

 私の場合、情熱の源になっているのは「一度きりの人生だから後悔しないよう、存分に楽しんで生きたい」という思いですね。縁があって今、この仕事をしているわけですが、どうせならこの仕事を世の中のためであったり、世界の人々の生活の向上に貢献していると実感できるものにしたい。「頑張れば誰かのためになる」と信じていることが、自分を動かす大きなエネルギーになっています。
 忍耐力ということで言えば、やっぱりトラブルとか、不測の事態が起きた時に痛感しますよね。“不測の事態”と言っても、その定義は人によってすごく違っていて。許容値が大きい人は、少々のことでは“不測”とは思わない。「こういうことは起こるものだ」と、冷静に乗り越えていくことができるんですよ。日本より海外で仕事をしているほうが、やっぱり“不測の事態”には遭遇しやすいと思います。でも、とんでもない経験を積み重ねる中で、自分の許容値がどんどん上がっていく。ある意味、それが成長するってことじゃないか、とも思いますね。

ー 就活生に向けてアドバイスをお願いします。

 今は、IT業界とか金融とかが人気なようですが、モノづくりの業界というのは、実は戦後の日本を支えてきた業界で、生活の基盤をつくっているところだと思うのです。私にとっては、モノづくりを通して日本の技術を世界に伝えながら、未来を拓いていくというのがとても興味深い。だから、そんな思いを共有できる人がいたら、ぜひ一緒にやりたい。
 大晃グループは、“世界の舞台”というのを強烈に意識している会社です。だから、グローバルに働くチャンスは多いし、これからますます増えていく。というかグローバルが当たり前の環境になっていくでしょうね。私はそんな大晃で、オンリーワンの日本の技術を世界に広めていきたい。やりませんか、一緒に。

フットワーク軽く、アクティブに仕事を進めていくのが東野のビジネススタイル。あらゆる人と積極的にコミュニケーションを取っていく。相手の懐に飛び込んでいくのが絶妙に上手い。本人によるとそれは才能ではなく努力した結果とのこと。


シンガポールのポテンシャル

TAIKO ASIA PACIFIC PTE.LTDは
今後のアジアにおける営業展開のメイン拠点へ。

 観光都市として世界有数の高い評価を受けるシンガポール。船をイメージする巨大構造物を3つのビルで支えるマリーナベイサンズが有名ですが、その下に広がるマリーナに目をやると無数に思えるほどの船舶が停泊しています。そう、シンガポールはアジア・ASEAN諸国のまさに"HUB"であることを証明する光景です。
 大晃機械はこれまでモノづくりの拠点として中国を舞台に生産体制を構築してきましたが、シンガポールにおけるTAIKO ASIA PACIFIC PTE.LTDは今後のアジアにおける営業展開のメイン拠点として大いに期待されています。

国際M&Aの成功を期してオランダへ。そしてCEOへ。 Series 01:オランダ編 乾 太輔 Taisuke Inui MarFlex Holding B.V.  CEO